黄色い少年

私の小学校では有名な黄色い少年

 私の小学校では『黄色い少年』なる学校の怖い話的な言い伝えがありました。
ただ、みんなその言葉を知っているだけで、それが何なのかは誰も知らない、でもみんな『黄色い少年』という言葉を知っているという感じでした。
 校庭に消火栓があり、それが黄色に塗られているから、
「これが黄色い少年かな?」
で話は終わってしまっていましたが、何故か皆、その言葉だけ受け継がれて知っていたのでした。

Yellow floweres boy
Yellow floweres boy

講堂の地下掃除

 ある週、掃除当番で、講堂の地下の掃き掃除という番がまわってきました。私の母校では、体育館で無く、講堂を体育館として使っていました。昭和64年が平成にかわる年の出来事です。
 地下へ入る階段はふたつ有り、私は校舎から近い西側の階段から地下室へ入りました。階段を1段1段、ほうきで掃きながら地下室へ向かって掃除を始めました。東側の入口から、同じ班のCちゃんが掃き掃除を進めています。地下室は窓が無いので暗くひんやりとしています。ほうきを持って入ったので、蜘蛛の巣をはらったり、床の綿ぼこりをはいて、地下室のちょうど真ん中あたりでCちゃんとゴミをまとめ合わせてチリトリで取ったら、裏の焼却炉へ捨てて、掃除は終わりという流れでした。

地下室の見取り図
地下室の見取り図

見てはいけないものがあった

 チリトリにごみをまとめると、掃除をさぼっていた同じ班の男子が来ました。いつの時代も変わらず、ヤンチャ坊主はいるものです。
 「もう掃除は終わったよー」
というと、
「じゃあ遊ぼう!」
と言います。
時間はあったのですが、Cちゃんはマジメな性格で、
「じゃあ、私このゴミ片づけてそのまま教室戻るから。」
と言い、私のほうきも持ってニコニコして行ってしまいました。
 男子は笑顔の可愛いT君です。
「この上を走ろう!」
とT君が指さしたのは、地下室に沢山整頓して詰め込まれていたパイプ椅子です。
私はその時初めて、この地下室にこんなに沢山のパイプ椅子がたくさん置いてあることに気が付きました。今まで掃除してきたものの、掃除範囲がせまいのはこのパイプ椅子があったからだと認識していませんでした。
 見るとT君はすでにパイプ椅子の上を走っています。地下室の壁から壁へぎっしりと詰めてあるので、ガタガタしたり、不安定そうな感じはありませんでした。

それはパイプ椅子のすぐそばに

 掃除時間が余っていたことと、パイプ椅子の上に乗ったら地下室の天井が低いので、頭の上スレスレで、ジャンプしたら頭が危ないというシチュエーションをみて、なんだかワクワクして私もパイプ椅子の上で遊んでしまいました。
 なんかつるつるしたパイプの上を走り回る感覚が面白かったので、T君とヒィヒィ笑いながら走り回っていると、だんだんとその空間に慣れてきました。笑っているせいもあって、奥まったそのスペースを怖いと思わなくなってきました。こんなところで遊ぶ前は、暗い奥を、無意識に避けていたのかもしれません。それとも、その空間に歓迎されてしまったのでしょうか。

 慣れてしまった私は、走り回っているT君を横目に、奥の部分を観察し始めました。なんで今まで怖かったんだろう・・・暗いから?
 奥の壁まで近づくと、中央にドアがあることに気づきました。ドア・・・。この空間の上は、ステージかな?使わない部屋だから、パイプ椅子でいっぱいにしちゃってるのかな?
 ドアノブを探すと、パイプ椅子の高さより少し下にありました。鉄の鎖でグルグル巻きになっています。その横に、お札が貼ってありました。
「え」
 これは怖いぞ、T君が来たら絶対いたずらしそうだから、みつからないように教室へ行こうって言わなきゃ・・・と思った矢先
「なにこれ!」
T君です。さっとT君が手を伸ばそうとしたので、
「横にお札があるよっ。呪われるよっ。」
というと、
「うわ!ほんとだ、やめるか。」
と言って諦めてくれました。
 そういってT君が立つと、
「おい」
T君の方へ向き直ると、T君が立って上の方を見ている、その先にはドアの左上の方に空気穴があり、そこにもお札がありました。さっき、気づかなかった・・・
 
「こらっっっ!何してんの!もう5時間始まるよ!」
用務員のDさんが、大きな声で注意してきました。
「Dさん見て見て!ここのところにお札があるよ!」
T君が言うと、
「・・・いいから行きなさい。先生に怒られるよ。」
T君はダッシュで走って先に行ってしまいました。
「あの、Dさん。お札が2枚も貼ってあるよ。なんで?」
勇気を出して聞いてみると、Dさんは
「いろいろあるんだよ学校もさぁ。さぁ、早く教室帰んなよ。」
と言いました。
いろいろある・・・とは???
腑に落ちないけど、きっと教えてくれないなぁと思い、教室へ走りました。

それから6年後に突然

 私は黄色い少年の話も、あのお札で封じられたドアの事も、何も分からず仕舞でその小学校を卒業し、すっかり忘れていた、16歳になった私のとある日の事です。

 高校生の時の家庭教師と話しをしていると、ひょんなことから、あの黄色い少年の話になったのです。
 家庭教師はわたしより10歳年上で、私の小学校の隣の地区の小学校を卒業したそうです。小学校の時の話をしていると、家庭教師が小学生だった当時には、他の地区の小学生もかなり自由に他の小学校に出入りできたそうです。
 「知ってる知ってる!黄色い少年!俺、見たもん!」
「え!!!」

夜中に忍び込んだ講堂で

Bench in the dark with lights
Bench in the dark with lights

 この家庭教師が小学生の高学年だったということは、昭和54年前後の話です。
S区とK区は隣あった地区で、小学生たちはどちらかの学校の体育館でよく遊んだそうです。どちらの区の小学生も仲が良く、当時は、夜も鍵がかかっておらず自由に遊べたそうです。
夕方に行くと、電気がついていないときもあり、懐中電灯を持って行って遊んでいたようです。
みんなでボールを投げたり、追いかけっこしたり楽しく遊んでいると、夜も遅い時間になったそうですが、当時はここが社交場のようなもので、遅くまで遊んでいたそうです。
その晩は、10人近く集まって、また遅くまで遊んでいると、何故か急に舞台の方が気になりふと顔をそちらに向けると、みんなも同じように一斉に舞台に目線をやっていたそうです。あれ?みんな同じ方向を向いている・・・

昔の単1電池が何個か入った懐中電灯だけがぼんやり灯った講堂の舞台に、光を放つ少年がいたそうです。黄色い光りで、帽子、肌、服、何もかもが黄色く発行していそうです。真っ暗なのに、少年自体が発光している為、とても鮮明に見えたそうです。

その少年を、誰かの友達かな?と不思議に思っている間に、少年は舞台を飛び降りて、サーっと講堂の南の出口へ向かって、全員のあいだを一直線に走りぬけて、そのまま消えてしまったそうです。

黄色い少年の正体は・・・?

「なんだったんだろうなぁ。」
家庭教師は顎に手をやって首をかしげました。
「なんていうか・・・怖くはないんだよ。他の友達は何回も見てるっていうし」

その少年は、必ず舞台に現れて、走り去って消えるそうです。
この先生も他の友達も、不思議と怖くなく、光っていることも気にならなかったのだそうです。小学校の高学年とか中学生くらいの年齢の集まりで、心が純粋だったのでしょうか。
どうやら先生達が黄色い少年を普通に見かけていた頃から10年ほどは、このS小学校の生徒の間に『黄色い少年』という言葉があり、不思議なことに、私の学年より1つ下の代からは、「えー何それ知らない。」となっているのも不思議です。
先生がこの話をしてくれて、すっかり忘れてしまっていたのに、小学校の地下で見たものを思い出しました。

やはり、あの地下室に何かあったのでしょうか。
お札はいつ貼られたのか、少年が何者だったのか、今も不思議なままのお話です。

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