出たぁ!!!
ちょっとほのぼのしたお話しです。

私のおじいちゃんが肺がんで亡くなると、おばあちゃんは寝室でひとりで寝るようになりました。
私のおじいちゃんは明治生まれ、おばあちゃんは大正生まれです。
2人の年の差は、14歳です。
おじいちゃんは寅どしで、おばあちゃんは巳どしです。
2人は満州事変、第一次と第二次世界大戦をまたいで生きてきたツワモノです。
仲良しでしたが喧嘩をすると、おばあちゃんがおじいちゃんの禿頭をビターンと叩いたりしたものです。
おじいちゃんが肺がんで亡くなったとき、おばあちゃんは泣きながら死に水をとり、紅を差していました。
私は、その様子を初めて見たのですが、おじいちゃんの唇に真っ赤な口紅をつけていて、それが死化粧だと知らない私は、悲しかったのに噴き出して大笑いしてしまいました。
おばあちゃんが、
「何がおかしいだい」
と言うので、
「なんでおじいちゃんに口紅塗っちゃった?間違ってるよ」
と言うと、
「死に化粧ってこういうもんだよ、あんた知らなかったのかい。」
と言いました。
おじいちゃんの前で笑ってしまい、申し訳ない気持ちになりました。
おじいちゃんの葬式のあと
お葬式や法事も終わって、ひと段落したある晩の事です。
深夜1時ころ、1階からとんでもない悲鳴が聞こえてきました。
「ぎゃあああぁぁあぁぁぁぁぁー」
おばあちゃんです。
2階で寝ていた家族はとび起き、
「どうしたー?」
と1階へ向けて声を掛けると、
「来てきて!早くぅぅぅ」
とおびえた様子です。
大きい蜘蛛が出たのかな・・・
手のひらくらいの家蜘蛛が出る事があったので、私はおばあちゃんの部屋に行くのが怖いな、と思いました。
父母と私でおりていくと、おばあちゃんは
「おっかないよぉぉぉ」(怖いの意)
と布団で縮こまっていました。
聞いてみると、おばあちゃんが眠っていたら、隣の仏間で畳をの上を歩く音がしたそうです。
以前、やはり深夜に玄関から泥棒が入ってきた事があり、また泥棒かと思い息をひそめていると、その足音は両足を畳にずっずっと引きずるような歩き方をしていて、年寄りの泥棒?と不思議におもっていると、おばあちゃんの寝室へ入ってきたそうです。
おばあちゃんは寝たふりをしていれば年寄を殺したりしないだろうと目を閉じてしたそうです。足音はしばらく歩き回り、おばちゃんのすぐ横で足を止め、
「し な こ」
とおばあちゃんの名前を呼んだそうです。それは亡くなったおじいちゃんの声で、幽霊嫌いのおばちゃんは絶叫したという訳です。
父は、
「そんな事があるもんか!おばあさんは寝ぼけただよ!」
母は、
「お義父さんが挨拶にきたじゃない?怖くないよ」
と言いました。
いつもは『おばあちゃんはなぁんにも怖いモノなんか無いよぅ。』と笑っていたおばあちゃん。死んだはずのおじいちゃんが挨拶に来て、声を掛けたのは怖かったようです。
きっとおじいちゃんも、大声を出されてビックリしたんじゃないかな・・・?と想像すると、なんだか笑ってしまいました。
