F病院のロビーで
何だろう?
地元の救急病院のロビーでのできごとです。
足をねんざした私は、F病院のロビーで診察を待っていました。
F病院のロビーは、壁の4面のうち2面が大きなガラス張りで、外の景色が見える感じで玄関に背を向けた椅子の並びでした。ガラスの前にはテレビとその横に新聞、雑誌がありました。中学生の私は、新聞も雑誌もニュースもつまらないので、中待合室に早くよばれないかなぁとボーっとしていました。
ロビーの真ん中には池があり、金魚やミドリ亀がいました。
大きな黒い丸
足が痛いので椅子に腰かけ外をボーっと眺めていると、ガラスに玄関から入ってくる人や、出ていく人が映って見える事に気がつきました。
私は、小さなお婆さんが家族と退院していくような様子や、怪我をして泣きながら親と入ってくる子供、何か持った業者の人などを、ただボーっと眺めていました。
いろんな人が病院に来たり出たりするなぁ・・・と思っていると。
玄関から天井に着きそうなくらい大きな黒い輪がゴロンゴロンと入ってくるのが見えました。
「えっ?」
ふりかえると、玄関は開いてもおらず、何もありません。
目が開いたまま、ちょっと寝たんだろうか・・・
びっくりしてちょっと椅子に深く座り直し、また窓の外をみていると、
ゴロンゴロンゴロン。
大きな黒い輪が、また玄関から入ってきました。輪は厚みがあり、ようく見ると、なんだか下の方には火がついている様子です。火も黒くて、メラメラしていました。
わぁ・・・でかいなぁ・・・
ロビーで座っている人たちだってその窓ガラスに一緒に映り込んでいるのに、誰も見えていないみたいで、無反応です。
きっと振り返るとあの黒い輪は見えないんだろうなぁ・・・
と、その玄関に、大きな音をさせて救急車が来ました。
ロビーがざわっとし、みんな振り返って様子を見ると、どうやら交通事故に遭った子供らしく、かなり状態が良くなく、親らしき人が嗚咽を漏らし担架について行きました。
あれは、被害者が見たタイヤの記憶だったのでしょうか。
それとも、妖怪辞典によく載っている『輪入道』だったのでしょうか。
