友達の死と幽界

日常の私達
幼馴染のS君の死は突然訪れました。
これは私が中学3年生の時のお話です。
S君は、保育園で3歳の時から小学校、中学校と11年も一緒に過ごしてきた友達です。
中学3年生になると、同じクラスで、同じ班になり、修学旅行の計画も立て始めました。
S君は、小学校の時同じ塾に通ったり、学校の後に一緒にファミコンをしたり、毎年バレンタインに必ずチョコを渡していました。
優しくて、学級委員や生徒会もやっていたS君。
スポーツテストも1級で、何をやるにも一生懸命な彼は、男子女子問わず人気で、先生からの信頼も厚い人望のある男の子でした。
修学旅行が同じ班で、こんなしっかり者がいるなら安心だ!と班の仲間みんな喜びました。実際S君は、
「自由行動どこ行きたい?」
と班のみんなの意見を聞いて、場所を地図で確認し、計画を立ててくれて、1発で計画書は先生のOKをもらい、まだ同じ中学3年生になったばかりなのにすごいなぁと感心しました。
別れは突然に
その日、やはり修学旅行の件でみんなで少し居残りをしていました。なにか話をしながら、私はS君の顎が気になってしかたありませんでした。なぜ気になるのかわかりませんが、妙に気になって・・・
S君は、私がじっと見つめたせいか、
「もしかして急いでる?みんな先に帰っていいよ、やっとくから」
と、明るく仕事を引き受けて、みんなを帰してくれました。
これが最後の会話になりました。
私は何だか不安な気持ちで帰った事を覚えています。
早朝の電話
翌朝5時か6時、電話が鳴り私が出ました。
S君の家のすぐそばの祖母からで、
「大変だよ、S君が事故でF病院に行っただって。」
おばあちゃんの声から、これは命に危険が及んでいるという事がわかりました。
その後、登校すると、先生からS君が事故に遭ったという話がありました。意識不明で入院しているとの事で、みんなすごくショックでした。とても信じられませんでした。
入院は1日、2日と伸び、みんな自然と千羽鶴を折るようになっていました。
お見舞いに行く人は学年から男子1名女子1名、という選出で、女子は私が行くことになりました。
いつも見慣れたF病院がこんなに悲しい色に映り、すごく不安な気持ちでした。
病室へ行くと、S君のお母さんが、事故の詳細と現状を話してくれました。S君はこの事故で、顎を強く打ち、そのはずみで外れた顎の骨が後頭部の脳にダメージを与えてしまったとの事でした。
S君は包帯を巻いて、病室のベッドで動きませんでした。
手には野球のボールが握られていました。
S君のお母さんが手に渡したら、一切動かなかったのに、ボールは握ったんだと話してくれました。
事故から10日、S君の心臓は止まってしまいました。
朝のホームルームで先生から知らされた時は、時が流れていないかのように、動けなくなりました。
1学年下の霊能力男子
S君が亡くなってから、1か月~3か月の間の頃だったように記憶しています。
H君という、1学年下のS君と同じ部活の男の子と、他の男子や女子5人位と話す機会がありました。
何の時間だったのか、午後3時くらいに学校裏の水がながれていない大きな河原に集合だったようです。何の集まりか全くわからない私は、呼ばれて呑気にそこへ行きました。部活が休みだったのかもしれません。
そこで集まって話をしていると、途中、H君から霊能力があるという話をされ、私はそうなんだ!とびっくりしました。全然、変な事ともおもいませんでした。
そして、みんな目を閉じるようにいわれました。
目を閉じて、赤い点のような光が見える方向を向いてとH君が言い、
いいよ。と合図で目を開けると、みんな同じ方向、同じ場所を見ていました。そこには河原の中にポツリと生えた小さなツツジの木がありました。
「そこにS君が立っているから。」
と。
みんなびっくりしたのは言うまでもありません。
「ほんと?見えないけどH君見えるの?」
「見えます。」
私も見えなかったけど、こうして再会できているんだ!と嬉しくなり、何かいろいろ聞きました。
修学旅行にも、一緒に行ったのかなど。
みんなS君が好きなので、盛り上がりました。
H君が通訳のような感じで、でも返ってくる返答が、S君らしい言葉だったり、ああ!本当にここにいるんだ!と思いました。
あの世ツアー
いろいろ話していると、H君がO君に耳打ちをしました。そしてO君が、真剣な表情になりました。
「これで、信じてもらえたと思うんだけど、今から言う事、聞いて。」
S君が、まだ天国に行かない時期なので、夢の中でなら遊べるという話でした。
そして、それに行くのに、連れていける人数が2~3人だけだという話でした。
H君は、
「女子は、えーとカタカナの『ネ』みたいな字が左で、右に『谷』、の字がついてる人。」
と言い、それをS君が教えているようでした。
そしてその漢字は私の名前についている漢字だったので、じゃあ今夜!となり集まりは解散しました。
この時に、夢で逢うための、何かをする、そしてそれをしてから寝て・・・とか指示がありましたが、そこのトコロがぼやけて覚えていません。 子供だったので純粋に、それをやって寝たことは覚えています。
そこは『幽界』という場所

夢の中では、S君が亡くなったという意識はありませんでした。
ただ、午後に約束したメンバーがそっくり集合していました。集合場所は学校でした。
夢の中では、空中を飛んで移動しました。
うす暗い世界で、空がオレンジから黒っぽい赤色でした。
空を飛んで、あちこち見てしばらく見物した後、S君が
「ここから幽界ってところに入る。静かにしてて、大きい声はダメ」
そこは亡くなったひとがいる世界でした。
亡くなっているのに、あまり気づいてないっていうか、生きていた時と同じようにしている世界でした。
私はそっと、何かまずいことにならないように静かにしていたことを覚えています。
遊んでいられる時間が終わるときが来て、S君がある一定の場所まで送ってくれました。
「ここから先は、俺は行けないから。みんな元気で!またな」
とS君が言い、私はなんだか淋しく、ああ、もう違う世界の存在になってしまったんだ、ここで分かれ道なんだ。とぼんやり思いました。
そこの場所からは、ただ飛んでけば元の世界へもどるという話でしたので、ふわりと幽界を背中にし帰路につきました。
振り返ると、S君は幽界の境界のところで立って、こちらを見送ってくれていました。
翌朝
起きると、体が疲れていました。
寝坊したのであわてて学校へ行き、休み時間になると隣のクラスからO君が私のクラスの廊下の窓から『あっち。来い。』というような指でジェスチャーをしたので、すぐ席を立ち、O君のところへ向かいました。
人の来なそうな階下の家庭科室か何か特殊教室の廊下で、昨夜の話をしました。
ゆうべの話をお互いに話すと、内容はぴたりと合致しました。
やはり、みんなで幽界へ行ったのは現実なんだ。と、この時に確信しました。
O君は、幽界での話をしていましたが、最後のお別れの時が淋しかったと言っていました。チャイムが鳴り、O君は景気づけに私の肩をバーンと叩き、戻ろう!と教室へ走りだしました。
最後のお別れ

しばらくすると、S君が天国へいく日があったようです。
朝、教室へつくと、みんながS君の夢をみたと盛り上がっていました。
クラス全員に近い数、ほとんど全員です。
Mちゃんは、新幹線の中の座席に座っていたら、ホームにS君がいて、話しかけようと席を立つと新幹線が動き出し、S君が手を振ってバイバイした、という夢を見たそうです。みんなが一様に、こういう別れの夢を見ていたのです。
みんな、淋しさと同時に、S君はお別れしに、全員のとこへ来てくれたんだ!と温かい気持ちになりました。また、見なかったというT君は泣いてしまいましたが、
「絶対、S君は来てくれたよ!T君がただ覚えてないだけでさ、大丈夫だよ!」と皆で励ますと、T君は真っ赤になり、そうだよな!とにっこりしました。
こんな風にして、亡くなってからもS君に会えたこともあり、私はS君がこの世にいないだけでいつも心にいると感じていました。
それから3年が経ち、私は高校3年生になっていました。
一人で家に帰る為、バスのロータリーでバスを待っていると、私の乗る大きなバスがゆっくりとこちらに向かってきました。その時、何故かそのバスにS君が乗っている気がして、バスに乗り込みステップを上がってから車内を見ましたが、S君はいませんでした。当たり前の事なのですが、何故かそこにいるって、強く思ったのです。
席についてから、しばらくして急に悲しくなり、涙が出ました。そういえば、亡くなった当時から、亡くなった事が信じられなくて、涙が出ませんでした。
S君の姿を見なくなって3年、ようやくS君が亡くなった事を理解できたのかもしれません。
またいつか、天国に行けた時に再会できるといいなぁと思います。