誰の手

それは一人の時に起きる

 これは私が小学5年生頃の出来事です。

森の中の大木のひと枝に腰掛ける人 大自然の中 神秘的な写真

 私は13歳まで、湖のほとりのキャンプ場の管理人をする家族と、深い山の中に暮らし、成長しました。

 山も湖も空もとても綺麗で、よくCMの撮影やドラマのロケ隊がきました。17歳前後の可愛い宮沢りえさんや、菊池桃子さん、荻野目洋子さんなど、全盛期の芸能人をたくさん見る事が出来ました。
 菊池桃子さんは、TVでみるよりすごく細くて、可愛いお顔で、小学生の私はドキドキしてしまいました。写真を一緒に撮ってもらった時、私の肩に菊池桃子さんが手を添えてくださったのですが、折れそうに細くて白くて・・・『げいのうじんは、なんかちがうな!』と思いました。

 隣の家は1軒だけ。そのお隣さんまで行くのに車が必要でした。湖の向こうの1軒のほかには、車でもっと離れた集落へ行かないと、全くひとけの無いところでした。
 夏の観光シーズンには、見渡すかぎりテントだらけになり、キャンプへ連れられて来た子供達と友達になって遊んだり、BBQにお邪魔させてもらったり、楽しい事がたくさんありました。

一面に張られた無数のテント 大勢の人がキャンプを楽しんでいる 青空と自然が美しい

 3歳からこの山奥に住んでいたため、この環境を当たり前に思っていましたが、ここは自殺が多く、事故死、急な病死、その他に謎の死もたくさんありました。

自殺で多いのは首吊り、入水自殺です。首吊りは、ひとけの無い時期にひっそりと行われるのだと思います。春に山菜摘みのひとが、人骨が散らばっているのを発見し、警察が来ます。やはり人骨の側の木にはロープがかけられていて、首吊りだなと想定する・・・といった流れのようでした。これはよくありました。

 事故死は、湖に落ちて助からないかたがありました。よく釣りにきたニコニコしたおじさんは、一杯やりながら水へ落ちてしまい、溺死してしまいました。あのおじさんがいなくなって、本当に死んじゃったのかな?と不思議に思いました。おじさんは、何十年も釣りに来ていて慣れたはずの湖なのに・・・。
 淋しく思ったことを覚えています。私の幼少期は、日常のなかで様々な『死』が垣間みえる・・・そんな風でした。

車のなかのひと
 

 5年生の夏休みの事です。当時駐車場は60台ほど車を置ける広さで、ほぼ全て車で埋まっていました。私は一輪車を買ってもらったばかりで、一輪車に乗り家を出て、フラフラあっちへつかまり、こっちへつかまりしながら広い駐車場まで来ました。
 ちょうどお昼前ぐらいの、太陽が照ってとても暑い日でした。
白地に赤いイチゴ柄の布を、少し前に来た撮影のスタッフが捨てるというのをもらったので、上下おそろいで自分で適当に縫った服を着て、一輪車で遊んでいました。母は、みっともないから着ないでと言いましたが、柄が可愛いので気に入って着ていました。

 4~5mくらいは手放しで一輪車を漕いでいけるのですが、途中でなにかつかまらないとまだ不安定だったので、キャンプしているお客さんの車をたどってジグザグに一輪車を練習していました。(その車のかた、今思うとごめんなさい。傷は一切つけていませんので許してください。)

 その車のうちの1台が、車の内側から新聞紙を全面貼っていました。日よけかな?と思い、あまり気にせず、練習していました。
 暑いなぁと思いながらも、一輪車で何周かグルグル歩いていると、何回かその車に手をついていて、気になるところがありました。新聞紙で全面おおっているだけでなく、排ガスの管にホースをつなげ、ガスの管とホースを、ガムテープでぐるぐるに巻いてつなげてありました。
 この人は車に手作りのモノをつけているなぁ。当時10歳の私はそう思いました。また何周かしてその車に手をつくと、そのホースは車の後ろから運転席の窓につながり、そのスキマをガムテープでふさいでありました。当時の私には、この状態がどんな意味を指すのか全く分かりませんでした。

 しばらくすると、誰かが気づき、救急車がおおきな音を鳴らしてやってきました。フラフラと一輪車で他の車に手をついて見ていると、誰かが担架に乗せられましたが、すぐに青いビニルシートがかけられました。救急車は音をさせないで帰りました。車はまだありましたが、近づくとポタポタと血がコンクリートの上に落ちていました。
 私は、お怪我をしてて死んじゃったのかなと思いました。救急車が来る前の、その車に手をついている間、中にいた人は死にかけていたんだな、気づかなくて悪かったな、と思いました。

 騒ぎの時は昼時で、母は祖母の食堂を一緒に切り盛りしていたため、騒ぎが静まったころに一輪車の私の所へきて、「なんか救急車きてたみたいだけど何だった?怪我?」と言いました。「お怪我してたみたいだよ、ここに血がいっぱい落ちちゃってる。」というと、「お昼だから帰っておいで。」と私に昼食を促しました。 

 大人になってからこの事を思うと、なんだか心が痛みます。あんなに賑やかな所で自殺をするのは、途中で誰かに気づいて欲しかったかもしれないし、淋しい所でひとりで死ぬのは嫌だったのか、思い出の場所だったのか・・・

小皿ののったおにぎり二つとおいしそうな黄色いたくあん お昼ご飯

ここからが恐怖体験です。

 昼に起きた排ガス自殺をすっかり忘れてしまうのが小学生らしいというか、私は離れの自分の部屋で本を読んだりして、ひとりで遊んでいました。
 弟はその時は一緒におらず、離れにはよほどの事が無いと誰も来ないので、一人で自分の世界に没頭していました。
 その頃に気に入っていたのが、自作のイチゴ柄の服と、You are my sunshineという曲で、カセットテープで聞いていました。母が買ってくれました。
 壁に寄りかかって夢中で遊んでいると、壁にもたれている方の二の腕をガッと掴まれました。いきなり、突然です。かなりガッチリ掴まれました。これには本当に驚きました。だって、誰もいないはずの部屋なんです。
 
 あわてて手を引き戻そうとすると、その人はもっと強い力で二の腕を掴んで放しません。状況が理解できないのですが、こんな近くにひとがいたことにひどくびっくりしたのです。そして、この人は誰?なんで引っ張るんだろうと思いました。恐怖の中で必至に抵抗しながら、恐ろしいことにこの人は壁の中から私を引っ張っていることに気づきました。「うわっ!!!」ここでとうとうパニックです。壁に寄りかかっていたのに、その壁から黒い手が出て私の腕を掴んでいるのです。

 私はぐいぐい引っ張られて、座っていた場所から移動している感じがしたので、目を開けてみました。もう、私は壁に上半身が入ってしまっているようでした。壁のなかは黄色というか、黄土色で・・・異様な空間が広がっていました。その間も強い力で引っ張られます。思い切ってその人を両目で直視すると、全身が真っ黒で、ちょうど全身タイツの顔の部分も真っ黒・・・というような、大人の男性でした。

「やめて!」力いっぱい叫びながら抵抗しますが、全く諦めてくれません。怖くて逃げたいのに、全然、子供の力ではどうにもなりません。ええぇ、もう嫌だ、こいつ何?どうしよう。母屋は遠いから絶対声が届かない、泣きそうになっていると、
「何してる?どうした?」と声がし、その瞬間、黒い男と黄色い空間は消えて、目の前はいつもの壁になっていました。

 弟が離れに来てあの時、後ろから声をかけてくれなかったら、どうなっていたんだろうと思います。

 昼間の自殺のひとは、この心霊体験に関係あったのでしょうか。
死にゆくなかで、私が無邪気に遊んで彼の車をさわってしまったのが気に障ったのでしょうか・・・。
 
 

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